2011年8月27日土曜日

ポラロイドの話

現代のポラロイド「ポゴ」
ポラロイドです。普段は略して「ポラ」と言ってます。
「ポラロイド」は商品名なので正しくは「インスタント写真」と言いますが、ポラロイドがインスタント写真の代名詞になってしまいました。
皆さんご存じなのはシャッターを押すと『ジーッ』とカメラの下から写真が出てきてしばらくすると白い写真面からじわじわと画像が浮かび上がってくるヤツ。
「非剥離法拡散転写法写真」が正式名称。
今回出てくるのはこいつではなく「拡散転写法写真」または「ピールアパート方式」のポラロイドの話。

フィルムカメラ時代の話。
プロカメラマンは本番撮影の前に「ポラを切る」のが普通でした(過去形)。もちろん戦場カメラマンや追っかけ取材撮影の時などは別です。
僕がプロになって最初のころに使っていたカメラはニコンだったので、ポラが切れない。なので、ハッセルブラッドを持ち歩いてハッセルでポラを切り、ニコンで本番撮影をしていた。

ハッセルとポラ
何故ポラを切るのか。フレーミング、ライティング、露出のチェック。
雑誌の場合編集者、広告の場合デザイナーやアートディレクターにポラでフレーミングをチェックしてもらって、文字や文章のレイアウトを確認、さらに自分でライティングや明るさをチェックする。そして人物撮影の時に重要なのが、モデルにポラを見せてコミュニケーションをとる。モデルは自分がどんな風に写っているのか、どこまで写っているのかがわからない。そこで撮ったポラをモデルに見せ、動きや表情を指示するのだ。それまでは「少し足を開き気味にして腰ふって・・・」「このカメラマン何言ってんだ?エロおやじか?」と思われていたのが「ほらね!こうするとスカートのスソが揺れてきれいでしょっ!」「ほんと〜だ!カメラマンの言うことちゃんと聞こ〜うっ」となる。

なつかし〜い。コンタックスで撮ったポラ。
そんなコミュニケーションツールとしても重要なポラだが、ニコンやキヤノンからは正式にはポラカメラが出ていない。初期のころはハッセルでポラを切っていたのだが、コンタックスからポラ専用カメラが発売になった。当たり前の話だが、コンタックスのカメラにニコンのレンズは使えない。僕は35mmカメラは当時ニコンしか使っていなかったので、銀座にある田鹿写真機研究所でコンタックスポラカメラをニコンマウントに改造してもらった。これで撮影レンズと同じレンズでポラが切れる。大変重宝したのだが、いかんせんコンタックスボディにニッコール、自動絞りが連動しない。詳しくは書かないが、やっぱちょっと不便。しばらく使っていたが、メインボディをニコンF3からF4に代えたときにF3ボディがあまったので、アメリカ製「NPCプロバックII」をF3の裏蓋を交換して取り付けて専用ポラカメラにした。これだと1枚のポラフィルムで2枚の写真が撮れるので又々便利になった。しかし、35mmカメラでポラを撮るとフィルムと同じ大きさ24×36mmサイズの小さな画面なのでちょっと見にくく、微妙なチェックは出来ない。
ニコンF3にNPC PROBACK

そうこうしているうちに撮影依頼がポスターであったり、雑誌の表紙になり中判カメラでの撮影が増えてきた。
中判カメラ=ブローニーフィルムを使うカメラはポラを切るのが当たり前。ハッセル、コンタックス645、ゼンザブロニカ、どのカメラもポラバックが用意されていてフィルムマガジンと交換することでポラが切れる。画面も大きくポラも見やすい。僕はマミヤ645Pro、後にマミヤ645AFDを使っていた。

マミヤ645AFD と ポラバック
ピールアパート方式のポラは、シャッターを切った後、白タブを一気に引き抜き、次に黒タブを一定速度で引き抜く。ここから時間を計って約1分半待って写真とネガを引きはがすのだが、この時点では写真の表面にまだ薬品がついていて乾いていない。不注意に触ると画像が削れてしまう。そこでポラの角を持ってあおぐようにして乾かすのだ。あんまり効き目はない。この動作が癖になってしまうと『ジーッ』と出てくる剥がさないタイプのポラまでヒラヒラと振って乾かそうとしてしまう。これこそホントに意味がない。

5年位前からブローニーの仕事もデジタル撮影に変わっていった。デジタルの場合ポラでやっていた「フレーミング、ライティング、露出のチェック」がカメラのモニターですぐに見ることが出来る。便利だ。失敗してもすぐにわかる。もうポラは必要ない。
と、思っていた。

  前回まで645で撮影していたが、今回からデジタルで撮影、となった写真集撮影でのこと。「ポラ撮って下さい」とアートディレクター氏。「えっ!だってデジタルだよ。モニターですぐ確認できますよ。ほらっ!」と僕。「でも、デザイナーに写真を見せなきゃいけないし全体の構成を決めるのにポラが要る。」確かに1週間撮影を続けているうちに最初の方でどんなカットを撮影をしたか忘れてしまう。フィルムの時はカット毎にポラを切ってメークルームの壁に貼り付けてみんなで確認しながら撮影していた。カメラマンとアートディレクターは現場で撮影しながら確認できるが、全員で情報共有するにはポラが要る。その日撮影が終わってから、Yドバシカメラに直行してHPのバッテリー駆動可能のコンパクトフォトプリンターを買って翌日から対応した。
HP フォトスマートA628 現在は製造終了。


「はいっ!じゃ〜ポラ撮ります。『カシャ!』 OK! 1分待ってね〜」アシスタント「ポラ待ちで〜ス」僕「メイクさんこの間にメイクのなおし」
フィルム時代と同じリズムで撮影しているが、もちろんポラは撮っていない。1分待ちと言っているが実際は90秒、ポラと同じ待ち時間でLサイズのプリントが出来る。
もちろん出来たプリントをモデルに見せ「すごくきれい!いいじゃん、いいじゃんこんな感じで本番よろしく・・・」

残念ながら本家のポラロイド社はその後経営破綻をしてしまった。ピールアパート式のポラフィルムはフジフィルムからFPシリーズとして出ているので今でもポラは切れる。そもそもこのフジのFPシリーズの方が本家のポラロイドより色がいい。FP-100Cはフィルムの色に近いので「ポラ切るよ!」と言いつつ「フジ」を切っていて、本家のポラは使っていなかった。もしかしたらそのせいで本家のポラロイド社が傾いてしまったのかもしれない。
その後ポラロイド社は経営がいくつか変わり現在もそのブランド名を残している。
2008年、年末。その新規ポラロイド社からモバイルプリンター「Polaroid PoGo」(ポゴ)が発売になった。ポラロイドらしい、他社とは違う新しい方式のコンパクトプリンターだ。大きさもHPのインクジェットプリンターと比べても圧倒的に小さい。
HP A628とポラロイド PoGo。白い紙が用紙サイズ。

「これでまたポラが切れるかも・・・」とすぐにアメリカのサイトから注文した。送料込みで10000円ほど。HPのプリンターの場合、テスト撮影後カメラからCFカードを抜きプリンターにセット、写真を選んでプリントボタンを押す。PoGoだと、カメラに直接PoGoのプリンターケーブルをつないでカメラモニターのプリントボタンを押す。待つこと1分。こりゃ便利かと思ったが、インクジェットプリンターのきれいなプリントに慣れてしまうと色が悪く画質も落ちる。バッテリーの持ちが悪く10枚くらいしかプリントが出来ない(HPは40〜50枚可能)。充電するのに3時間、予備の電池は売っていない。残念ながら仕事には使えなかった。


もともと「ポラ」といえば色が悪いのが当たり前。
「これピンク出てないけど大丈夫?」「これポラですから。ポラはピンクでないんですよ。本番はちゃんと写ってますから。」
「これ窓の外黒くなってるけど?」「これポラですから。ポラは3段以上明るいと白いところが黒くなっちゃうんです。本番はちゃんと写ってますから。」
「これ表情良くないけど・・・」「これポラですから・・・」
「背景ボケてないけど・・・」「・・・ぽらですから・・・」
と、ポラの再現性の悪さには慣れっこになっていたのだが・・・。

バッテリーの持ちが悪い「Polaroid PoGo」だが、何しろ小さい。iPhoneを倍の厚さにした感じ?ポラなど必要のない取材撮影にもカメラバッグの隅に入れて持ち歩いてコミュニケーションツールとしての出番に備えている。
D3とポゴ。ポゴは小さい。

2011年8月19日金曜日

「幻のニコンレンズE28を買う」の巻


最近は海外ロケがめっきり減りましたが、10年くらい前までは年に数回海外に撮影に行ってました。海外で自由時間があると必ず行くのがブックショップです。写真集やカメラ雑誌を見つけて何冊も買って帰ります。海外のカメラ雑誌を見ても載っているカメラは皆日本製で、見たこともないカメラはまったくなく、そんな意味では日本で雑誌を買っている方が最新情報が載っていますが・・。
Nikkorじゃないんです

20年位前でしょうか、アメリカに撮影に行ったとき「Shutterbug」という雑誌を買ってきました。かなり大判の雑誌ですが紙の質が悪く写真を見るのにはちょっと難ありの雑誌ですが情報はたくさん載っていました。「なんか日本にない変わったモノはないか・・」と細かな情報を探してみていると「VIVITAR」や「ROKUNAR」など日本では見たこともないディストリビューターのレンズが格安で載っていました。しかし記事や写真を見ると日本のレンズメーカーの製品をOEMで自社ブランドで販売しているモノであることは明らかでした。そんな中いくつかの中古ショップに共通している出所不明なレンズを見かけました。販売リストの中のニッコールレンズ群の一番下で、他社製レンズの上に「E28/2.8」がいくつもあったのです。思い当たるのはニコンが『ニコンEM』を発売したときに『レンズシリーズ E』というニッコールレンズではない廉価版を何本か出していたことです。「35mmF2.5」と「100mmF2.8」が他のニッコールレンズよりかなり安い値段で販売されていました。そもそも『ニコンEM』は若い世代用に簡単一眼レフとして販売されていたエントリーモデルでレンズも今では当たり前ですが外装をプラスチックして軽量化し、格安のレンズに仕上げたモノでした。その後、ズームレンズ「E75-150」「E36-72」「E70-210」が販売されたのは知っていましたが28mmは聞いたこともありません。海外に問い合わせるほどの英語力はなく、ニコンに直接問い合わせることも思いつかず、一か八かで購入することにしました。値段は確か100$位だったと思います。送料込みで2万円しないくらい。インターネットなどかけらもない時代、方法はFAXでの通販です。雑誌のうしろの方にFAX注文用紙が付いていてそれに必要事項を記入し、クレジットカード番号を記入しFAXしました。確認のFAXがきたのか、届くまで何日かかったのかなどはすっかり忘れましたが、レンズはついに届きました。

日本で販売されなかった2本
『Nikon LENS SERIES E 28mmf/2.8』はとても軽量コンパクトで、デザインは日本で販売された「E 35mm F2.5」と同一のものでした。早速テスト撮影をしましたが、比較したAisニッコール28mmF2と比べても遜色なく、むしろF2.8、F4辺りではニッコールより良い位です。Ais28mmは明るさを欲張ったせいか開放の画質は中央を除いて使い物になりません。F5.6まで絞ってやっと周辺画質が使えるレベルです。E28はさすがに開放ではコントラストが少し足りませんが、F4から実用域になります。早速ニッコールに代えてE28を仕事で使うようになりました。
それからしばらくして購入したアメリカのショップからざら紙に印刷された中古カメラリストが送られてきました。その中で今度は『Nikon LENS SERIES E 135mmf/2.8』を発見したのです。E28は雑誌の中でなんども見かけましたが、E135mmは雑誌にも載っていませんでした。早速、今度は躊躇なくFAXで注文しました。よく見るとE50mmF1.8もあり、これも注文しました。その間に日本で『レンズシリーズE35mmF2.5』『レンズシリーズE100mmF2.8』も買っていたので、28、35、50、100、135mm 5本のシリーズが全部揃いました。

Eはエコノミーの略?
プロになって何年かの間にF値の暗いレンズを次々と明るいレンズに買い換え、機材がどんどん重くなっていました。さらに「高いレンズは画質が良いのか?」もちょっと疑問に思っていたで一気に全部「Eレンズ」に代えて仕事をしました。おかげで機材は軽量化でき身体も楽になりました。
そもそもカメラ雑誌などでレンズの画質うんぬんの記事が今でも記事の主点になっていますが、プロにとって画質の善し悪しはあまり関係ありません。雑誌のグラビアの水着写真を見て「このレンズの周辺画質はすばらしい」とか「このレンズの歪曲収差は1%以下じゃないだろか」なんて言っている人いますか?そんなところ誰も見ていません。今どき日本製レンズでまともに写らないレンズなんてあり得な~い。ので、極論を言えばレンズは何でもいいんです。後は個人個人の好みの問題。

そんな「ニコンレンズシリーズE」もれっきとしたニコンのレンズ。ニッコールとの差別化のため「NIKKOR」銘が付いていませんが・・。
ニッコールとの違いは鏡胴のプラスチック化:後にほとんどのレンズがプラスチック鏡胴になったので、エンジニアリングプラスチックの先駆けとなりました。
レンズ構成の簡素化:28mmは5群5枚構成(ニッコール28/2.8は8群8枚)、135mmは4群4枚構成(ニッコール135/2.8は5群5枚)、貼り合わせレンズなしなので製造工程も簡略に出来ます。

コーティングはパープル系?

コーティングの簡素化:ニッコールはほとんどがマルチコーティング化されたが、シングルコートでコーティングも簡略に。それでもレンズ枚数が少ないのでゴースト、フレアーは全然気にならないレベルです。
かくして僕の常用レンズ「Eレンズ」一辺倒の時代は5年ほど続き、いったんニッコールに戻りズームレンズ時代の到来へと移り変わって行くのです。


さて何でニコンは35mmF2.5と100mmF2.8は国内販売したのに28mmF2.8と135mmF2.8は海外専用で国内販売しなかったのか?
ニッコールに詳しい方は気付いていますか?「28mmF2.8」と「135mmF2.8」は同じスペック(焦点距離とF値)のレンズがニッコールで同時期に販売されていたからです。28mmF2.8、135mmF2.8が2種類ずつあったらややこしい。35mmはF2.8があったのでF2.5に、100mmは105mmがすでにあるので5mm短くして同じスペックにならないようにしてEレンズ独自のスペックにしているのです。
28、35、50,100,135 Eレンズ5本の勢揃い

じゃあ、アメリカにはニッコール28mmF2.8、ニッコール135mmF2.8は無かったのか・・・。
あったみたいです・・・(汗)。

最後におまけ:
比較的短命で、滅多に見かけないE28mmですが、後に「AFニッコール28mmF2.8」として復活しています。初期のAF28mmがそうですが、 「AFニッコール28mmF2.8D」になったときに設計変更されて6群6枚の現行品にかわりました。
やはり短命でした。
ちなみに、AFになったときにレンズ構成は[E]のまま、コーティングがマルチコーティングに変更になっています。僕はE28も初期AF28も持っていますので、今度違いを撮り比べてみようと思います。