2013年7月24日水曜日

僕のお気に入り「Ai AFニッコール28mm F2.8S<New>」


安いレンズはだめなのか?

最近発売になった「AF-S NIKKOR 28mm f/1.8G」のスペックを見てみると
9群11枚(非球面レンズ2枚、ナノクリスタルコート)

以前からあった現行レンズ
「Ai AF Nikkor 28mm f/2.8D」は
6群6枚

レンズの開放F値を明るくすることは収差を増大させることにもなり、その収差を補正するためにレンズの構成枚数を増やし、それによって値段も跳ね上がる。
28mm f/1.8G¥93,450
28mm f/2.8D¥40,950
「一絞り明るくなるとレンズの値段は2倍になる」という法則にのっとって(そんな法則はない)一絞りと三分の一明るいレンズはみごとに2.28倍の値段である。
最新の設計、最新のコーティングを施された最新のレンズは確かに20年近く前の設計のレンズより良いことは間違いないだろう。もし、今使っているレンズに不満があったらすぐにでも買い換えるだろう。でも今使っているレンズは僕のお気に入りなので替えるつもりはないのだ。

僕が今使っている28ミリは、現行ニッコール28ミリの一つ前の世代の「Ai AF Nikkor 28mm F2.8S<New>」
1986年に発売された「AFニッコール」第一世代のフォーカスリングをラバーフォーカスリングに変え、1991年に発売した<New>タイプである。後に1994年、レンズ構成を新しくし、最短撮影距離を0.3mから0.25mに短縮した「D」タイプの現行品に変わった。
現行品の「D」は6群6枚構成だが、一世代前の「S<New>」は5群5枚で、今よりさらに枚数の少ないシンプルなレンズ構成になっている。

僕の勝手な思い込みだが、レンズ構成枚数の少ないレンズはヌケがいい。
いかにコーティング技術が向上して、レンズ表面の反射による光のロスがなくなったとはいえ、ガラス内部でも光は吸収される。当然レンズ合計の厚みが2倍になれば、吸収される光も2倍になるはずだ。

11枚より6枚、6枚より5枚でレンズが成立するならば、僕は5枚のレンズで十分だ。最初にそう思ったのは、「ニコンレンズシリーズE28ミリF2.8」を使ったときだった。
その頃僕は「Aiニッコール28ミリF2S」を使っていた。当時あった「F2.8」や「F3.5」のレンズに比べれば高価なレンズだったが、それほど満足出来るレンズではなかった。レトロフォーカスタイプ特有の四隅が「ガクッ」と落ちるレンズで、開放F2やF2.8位では周辺に問題があり、中央部しか使い物にならない。やっと周辺まで使えるようになるのはF5.6からで、実際それより開けて使うことはなかった。
そんなとき「日本では販売しなかったニコンレンズシリーズE28ミリF2.8」を手に入れた。
(詳しくは「幻のニコンレンズE28を買う」の巻のブログをお読み下さい)
http://kodawaricamera.blogspot.jp/2011/08/e28_19.html
この軽量、安価なレンズがなかなか侮れない。開放F2.8はハッキリ言って「Aiニッコール28ミリF2S」のF2.8より良かったくらいだ。それでしばらくの間はE28は仕事用メインレンズの一つとして使っていた。

それからしばらくしてAFの時代になり次第にAFズームレンズが仕事レンズの中心になり、デジタルの時代になった。
仕事上は便利なズームレンズで十分だったが、一通りの単焦点レンズもAFレンズで揃えることにした。
その時に気になったのがこのレンズ「Ai AF ニッコール28ミリF2.8S <New> 」だった。
何故気になったか?
このレンズは幻の(日本では発売されなかった)「ニコンレンズシリーズE28ミリF2.8」そのモノだったからだ。

レンズシリーズE28とAF ニッコール28の構成図
5群5枚のレンズ構成は構成図を見れば明らかなようにまるで同じ構成だ。中古で購入した「Ai AF ニッコール28ミリF2.8S <New> 」の写りはE28と同じ、ヌケが良くクリアーであった。加えて、E28のシングルコーティングからAF28はマルチコーティングになっている。E28の頃でも逆光でのフレアーなどが気になることはなかったが、マルチコーティングになっているのでさらに安心感がある。

シングルコーティングのE28
マルチコーティングになったAF28


ラバーフードHR-6
レンズフードは「HN-2」が指定のものだが「HR-6」を付けて使っている。これもE28専用フードで、日本で見かけることはない。フードを付けたままでレンズキャップが付けられ、折りたたみも可能なゴムフードなので格段に便利だ。















LW Nikkor 28mm F2.8
幻の「ニコンレンズシリーズE28ミリF2.8」がかたちを変えて日本に初登場したのがこの「Ai AF ニッコール28ミリF2.8S 」かと言うと実はそうではない。1983年ニコノス用陸上専用レンズとして発売した「LW Nikkor 28mm F2.8」も実はレンズシリーズE28の5群5枚レンズであった。このレンズはニコノスV等に付けて目測で撮影するもので、あまり注目されることもなくいつの間にかフェードアウトしてしまったものでE28よりもっと幻のレンズになってしまった。
NEVER use underwater














現在は販売されていない「5群5枚28ミリF2.8」レンズであるが、今までに「ニコンEM等のコンパクトフィルム一眼レフ用」「水中カメラニコノス用陸上専用レンズ」「初期AF一眼レフ用レンズ」として、3回かたちを変えてニコンに装着されてきたニコン秘蔵の「安価」「コンパクト」28ミリである。ある意味「信頼の逸品」である。
今後もいつか、かたちを変えて4度目の登場があるかもしれない。

2013年7月16日火曜日

僕のお気に入り「Ai AF ニッコール70-210 F4S」


AF ニッコール70-210 F4S
久々にこのレンズを引っ張り出してみた。

ニコン初の本格的なオートフォーカス一眼レフカメラ「ニコンF-501」の発売に合わせて、1986年に発売したAFニッコールレンズの最初期のレンズだ。レンズ構成は直前まで販売されていた「ニコンレンズシリーズ E70-210mm F4」と全く同じで、AFカメラの発売に合わせて大量のAFレンズを供給しなければならないため多くのレンズはAisレンズが流用された。
当時は「Aiニッコール80-200mmF4S」も同時に販売されていたが、「ニコンレンズシリーズE70-210mmF4」は低価格であるが、描写に関しての評判が良くヒットレンズであった。そのためAisレンズを差し置いてAFレンズに採用されたものと思われる。しかし、AFレンズとしての寿命は短命で、1987年半ばまでの約1年で「AFズームニッコール70-210mmF4-5.6S」にバトンタッチした。

80-200や70-200のズームレンズは望遠ズームの花形レンズであるが、何故このレンズが短命だったかを今回このレンズを改めて引っ張り出して考えてみた。
同スペックではコンパクトだし、画質は今回試しに写してみても十分満足のいくものだった。


考えられる問題点は、フォーカシングが前群繰り出し式で回転角も大きく、繰り出しに時間がかかる事だろう。無限遠から最短撮影距離の1.5mの先の(M)マクロまで約180° 専用フードを付けた状態で往復する様はとても「スムースなフォーカシング」とは言えない。そこでAF用に新設計した「AFズームニッコール70-210mmF4-5.6S」に切り替えたのだと思うが、このレンズは210mm時に開放がF5.6になり、僕にとってはあまり魅力的ではなかった。

最近発売になった「AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR」で思い出して引っ張り出した「Ai AF ニッコール70-210 F4S」だが、VRは付いていないがその分全長が約3cm小さく、90g軽い。ナノクリスタルコートではないが、特に強い逆光でなければ問題になることはない。問題のフォーカシングだが、ピントを探して行ったり来たりすることがなければそれほど時間もかからない。つまり、1.5mと10mに交互にピントを合わせるような過酷な動作をしない限りフォーカシングも特に問題にはならない。

現在は、グラビア系ロケ撮影は「Ai AF-S NIKKOR ED 80-200mm F2.8D(IF) 」がメインレンズなので、2本のレンズの重さを比較してみると半分以下の760g、これなら手持ち撮影も可能だろう。

「Ai AF ニッコール70-210 F4S」を買う前から使っていた「レンズシリーズ E 70-210mm F4」はニコンF3とセットで様々な仕事で使用した。当時テレビ番組雑誌の仕事が多く、テレビスタジオでドラマ収録中に俳優のアップを撮影するのにこのレンズを使っていた。ドラマの照明下で撮影するためフィルムはタングステンタイプのポジフィルム、プラス1増感しても早いシャッターは切れない。この頃は210mmでシャッタースピード「1/15」までなら手ぶれしない自信があった。「AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR」には「VR」が付いており「4段分の手ぶれ補正効果」が期待できる。当時このレンズがあったなら「1/15」の4段分、「1秒」でも手ぶれしなかったのか・・・。
ま~今でも腕は衰えていないので、「AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR」は当分お預けにして、次の撮影で「Ai AF ニッコール70-210 F4S」をメインで使おうと思う。

皆さんも中古レンズでこのレンズを見かけたら、ぜひ手にとってみて下さい。
僕はお薦めします。

ちなみにこの写真に写っているフォーカスリングはオリジナルではありません。
僕がMF操作向上にため自分で付けたゴムリングです。 

                    レンズ構成 最短撮影距離 フィルター径 大きさ   重さ
Ai AF NIKKOR 70-210 F4S          9群13枚  1.1m(M)   62mm   76.5×148 760g
AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR    14群20枚  1m       67mm   78×178.5 850g
AiAF-S Nikkor ED 80-200mmF2.8D(IF)14群18枚  1.5m             77mm   88×207  1580g



2013年7月7日日曜日

ライカレンズを全部買う その6 「さらに超広角21ミリ」



スーパーアンギュロン

 ライカMシリーズの内蔵レンジファインダーがカバーしているのは広角28ミリから望遠135ミリまでである。この28ミリをカバーしたのはM4-P以降で、M3は50ミリまで、M2・M4が35ミリまででM4-P・M6で28ミリファインダーが内蔵された。
 それ以降でも21ミリは外付けファインダーでフレーミングをしなければならない。ライカMシリーズで28ミリ以上の広角(24・21)ファインダーフレームを内蔵したカメラは出ていない(コシナ製ベッサには21ファインダー内蔵Mマウントカメラがある)。

 内蔵ファインダーでピントを合わせ、外付けファインダーでフレーミングをするという面倒な作業をライカ使いはバルナックタイプの頃から強いられていたのだ。
 現実には外付けファインダーが必須なのは24ミリと21ミリ、現在は18ミリがあり、それとホロゴン15ミリで、全て被写界深度の深い超広角レンズであるので、「置きピン」で撮影すればフォーカシングの手間は省くことが出来る。ベテランのライカ使いは、フォーカスレバーの位置でだいたいの距離を覚えていて「人差し指がこの辺で3m、ココまで来ると1.5m」等と指の感覚でピント合わせをするので、ピント合わせにさほどの不便を感じていないと思う。

 そして、ライカ純正の外付けファインダーの素晴らしさは前回書いた通りである。
そこで僕が、28ミリの次にねらいを定めた超広角が21ミリであった。
その頃はアスフェリカルのエルマリート-M21ミリF2.8がライカ現行品であったが、当然めちゃくちゃ高い。「古い」「暗い」「ぼろい」を我慢すれば「安い」ライカレンズが手に入ることがわかっているので、最初に探したのが「スーパーアンギュロン21ミリF3.4」であった。このレンズはまだライカが21ミリ超広角を製造できない時代に、同じドイツの光学メーカーシュナイダー社が製造したものだ。それ以前にも同じくスーパーアンギュロン21ミリF4がLマウント、Mマウント両マウントで出ているが、こちらは製造本数が少なくレアなため、数が多く出ているF3.4の、さらには後期型のブラック仕上げをネットで探し、最安値のものを10万円ほどで購入した。さらに外付けファインダーも探してプラスチック外装のものを2万円ほどで購入した。

 レンジファインダーカメラを使う最大のメリットは広角レンズにある。
マウントからフィルムまでの距離、すなわちバックフォーカスの長い一眼レフ用広角レンズと、ボディ内部にミラーなどがないため、マウントからフィルムまでの制約を受けずに設計が出来るレンジファインダーカメラ用広角レンズを簡単に分類すると、
レンジファインダー用広角=対称型広角レンズ
一眼レフ用広角レンズ=レトロフォーカスタイプ
と分けることが出来る。

マウント面からボディ内にレンズが深く入り込む
対称型広角レンズとは、
レンズ群中央部にある絞りを挟んで被写体側のレンズ構成と、フィルム側レンズ構成が対照的である。
これによって利点として「線対線対応」が保たれ直線が直線として描写される=歪曲収差を軽減することが出来る。他には全体として小型化が可能である。
欠点としては周辺光量の低下があげられるが、これは絞り込むことによって改善が望める。

最初期のニッコール20ミリF3.5
対する一眼レフ用広角レンズ=レトロフォーカスタイプは
ボディ内の可動ミラーをさけるためレンズ群全体をボディの外に構成しなくてはならないため、最前部に強い凹レンズを配する必要がある。このタイプを逆望遠タイプ(インバーテッドテレフォトタイプ)と称し、このタイプを最初に商品化したアンジェニュー社の製品からレトロフォーカスタイプと称することが多い。

 欠点としては、明るさを確保するためにはこの凹レンズの口径を大きくする必要があり、レンズが大型化してしまう。絞りを挟んだ前群と後群の構成が大きく異なるため歪曲収差が除去しにくく、樽型に歪む歪曲収差が残りやすい。
 利点としては周辺光量の低下を防ぐ事が出来るため、対称型広角特有の周辺光量低下がなく、画面全面に均質の明るさが保たれる。そしてこの部分を欠点・利点と言うより、2つのタイプの広角レンズの「違い」と捉えることが出来るのだ。

 対称型広角レンズのスーパーアンギュロン21ミリF3.4は周辺に行くにつれ光量が低下する「広角らしい描写をする」素晴らしいレンズなのだ。
一眼レフ生まれ、一眼レフ育ちの僕はニッコール28ミリF2の描写が28ミリの描写だと思い込んでいた。それが、ミノルタCLEの28ミリF2.8で撮影した写真を見て「これぞ広角レンズの描写」と思った要因はこんなところにもあったのでと思う。
 レンズの描写にも充分満足した「スーパーアンギュロン21ミリF3.4」であったが、僕のレンズは「黒」レンズで、フォーカシングレバーが固定式であった。聞くところによると、シルバー仕上げの初期スーパーアンギュロンのフォーカシングレバーは無限遠ストッパーが付いているという。これも欲しくなり、外観キズ有りのシルバー仕上げと専用フード12501を追加購入。あわせて12万円ほど。
スーパーアンギュロンとフード、ファインダー

ところで、このスーパーアンギュロン気を付けないと、初期ものはライカM5には取り付けられない。M5の測光アームがレンズ後端にぶつかってしまうからだが、製造番号2473251以降のレンズはM5の測光アームが出ないように工夫されている。
それと、M6以降の露出計内蔵ボディに付けても測光路をレンズ後端が遮ってしまうため測光できない。
そんな不具合に対応したライカ純正21ミリレンズが1980年に発売されたエルマリート-M21ミリF2.8である。
ライカM6にスーパーアンギュロン21ミリを付けた場合のシミュレーション

1)被写体を発見して外付けファインダーでフレーミングをする
2)内蔵ファインダーを覗いてピントを合わせる(慣れればこの手順は省くことが出来る)
3)単体露出計を用いて露出を測る
4)測った露出(絞り値)をレンズに合わせる
5)外付けファインダーを覗いてシャッターを切る

正確な測距・測光を求めると、こんな手順を踏まなければならないことになる。
ならばと、エルマリート-M21ミリF2.8を買ってしまった。
このレンズはレンジファインダーカメラ用だがボディ内のめり込みを減らすためにレトロフーカスタイプを採用している。そしてライカ純正最初の21ミリレンズである。
このレンズを使いM6で撮影する場合のシミュレーション

1)被写体を発見して外付けファインダーでフレーミングをする
2)内蔵ファインダーを覗いてピントを合わせ、絞りを加減して露出を合わせる
3)外付けファインダーを覗いてシャッターを切る

このようにスナップ性が格段に向上する。
しかし、描写はスーパーアンギュロンのほうが確実にシャープな写りである。特にエルマリート-M21ミリを開放付近で使うと、中心部は問題ないが周辺部は何となくシャープさに欠けモヤッとした描写になる。もちろん少し絞れば描写は格段に良くなり、周辺光量低下も少なく使いかっては格段に向上する。

そんなわけで、21ミリレンズは3本。
これで、「ライカレンズを全部買う」顛末は、
「その1」コンタックスG1がカバーしていない90ミリ以上の望遠をカバーしようと購入した「エルマリート135ミリF2.8」に始まり、135ミリ2本。
「その2」35ミリ数えきれず。
「その3」50ミリ数えきれず。
「その4」90ミリ6本。
「その5」28ミリ2本。
「その6」21ミリ3本。
純正ライカレンズの中の15ミリ(ホロゴン)、24ミリ、75ミリを除いて30本ほどを購入し、ほとんど満足して僕の興味はハッセルブラッドへと移っていた。現在はトリエルマーなどの多焦点レンズ、18ミリ、90ミリマクロなど更なる展開をしているライカレンズだが、その後は僕のライカレンズは増えることなくとどまっている。さらにはカールツァイス製Mマウントレンズ、コシナ製、フォクトレンダーブランドなどMレンズはとどまるところを知らない展開を続けて行く事だろう。

「ハッセルブラッドを全部買う」を書く機会が訪れるかわからないが、「ライカレンズを全部買う」シリーズはいったん終了。