2013年7月7日日曜日

ライカレンズを全部買う その6 「さらに超広角21ミリ」



スーパーアンギュロン

 ライカMシリーズの内蔵レンジファインダーがカバーしているのは広角28ミリから望遠135ミリまでである。この28ミリをカバーしたのはM4-P以降で、M3は50ミリまで、M2・M4が35ミリまででM4-P・M6で28ミリファインダーが内蔵された。
 それ以降でも21ミリは外付けファインダーでフレーミングをしなければならない。ライカMシリーズで28ミリ以上の広角(24・21)ファインダーフレームを内蔵したカメラは出ていない(コシナ製ベッサには21ファインダー内蔵Mマウントカメラがある)。

 内蔵ファインダーでピントを合わせ、外付けファインダーでフレーミングをするという面倒な作業をライカ使いはバルナックタイプの頃から強いられていたのだ。
 現実には外付けファインダーが必須なのは24ミリと21ミリ、現在は18ミリがあり、それとホロゴン15ミリで、全て被写界深度の深い超広角レンズであるので、「置きピン」で撮影すればフォーカシングの手間は省くことが出来る。ベテランのライカ使いは、フォーカスレバーの位置でだいたいの距離を覚えていて「人差し指がこの辺で3m、ココまで来ると1.5m」等と指の感覚でピント合わせをするので、ピント合わせにさほどの不便を感じていないと思う。

 そして、ライカ純正の外付けファインダーの素晴らしさは前回書いた通りである。
そこで僕が、28ミリの次にねらいを定めた超広角が21ミリであった。
その頃はアスフェリカルのエルマリート-M21ミリF2.8がライカ現行品であったが、当然めちゃくちゃ高い。「古い」「暗い」「ぼろい」を我慢すれば「安い」ライカレンズが手に入ることがわかっているので、最初に探したのが「スーパーアンギュロン21ミリF3.4」であった。このレンズはまだライカが21ミリ超広角を製造できない時代に、同じドイツの光学メーカーシュナイダー社が製造したものだ。それ以前にも同じくスーパーアンギュロン21ミリF4がLマウント、Mマウント両マウントで出ているが、こちらは製造本数が少なくレアなため、数が多く出ているF3.4の、さらには後期型のブラック仕上げをネットで探し、最安値のものを10万円ほどで購入した。さらに外付けファインダーも探してプラスチック外装のものを2万円ほどで購入した。

 レンジファインダーカメラを使う最大のメリットは広角レンズにある。
マウントからフィルムまでの距離、すなわちバックフォーカスの長い一眼レフ用広角レンズと、ボディ内部にミラーなどがないため、マウントからフィルムまでの制約を受けずに設計が出来るレンジファインダーカメラ用広角レンズを簡単に分類すると、
レンジファインダー用広角=対称型広角レンズ
一眼レフ用広角レンズ=レトロフォーカスタイプ
と分けることが出来る。

マウント面からボディ内にレンズが深く入り込む
対称型広角レンズとは、
レンズ群中央部にある絞りを挟んで被写体側のレンズ構成と、フィルム側レンズ構成が対照的である。
これによって利点として「線対線対応」が保たれ直線が直線として描写される=歪曲収差を軽減することが出来る。他には全体として小型化が可能である。
欠点としては周辺光量の低下があげられるが、これは絞り込むことによって改善が望める。

最初期のニッコール20ミリF3.5
対する一眼レフ用広角レンズ=レトロフォーカスタイプは
ボディ内の可動ミラーをさけるためレンズ群全体をボディの外に構成しなくてはならないため、最前部に強い凹レンズを配する必要がある。このタイプを逆望遠タイプ(インバーテッドテレフォトタイプ)と称し、このタイプを最初に商品化したアンジェニュー社の製品からレトロフォーカスタイプと称することが多い。

 欠点としては、明るさを確保するためにはこの凹レンズの口径を大きくする必要があり、レンズが大型化してしまう。絞りを挟んだ前群と後群の構成が大きく異なるため歪曲収差が除去しにくく、樽型に歪む歪曲収差が残りやすい。
 利点としては周辺光量の低下を防ぐ事が出来るため、対称型広角特有の周辺光量低下がなく、画面全面に均質の明るさが保たれる。そしてこの部分を欠点・利点と言うより、2つのタイプの広角レンズの「違い」と捉えることが出来るのだ。

 対称型広角レンズのスーパーアンギュロン21ミリF3.4は周辺に行くにつれ光量が低下する「広角らしい描写をする」素晴らしいレンズなのだ。
一眼レフ生まれ、一眼レフ育ちの僕はニッコール28ミリF2の描写が28ミリの描写だと思い込んでいた。それが、ミノルタCLEの28ミリF2.8で撮影した写真を見て「これぞ広角レンズの描写」と思った要因はこんなところにもあったのでと思う。
 レンズの描写にも充分満足した「スーパーアンギュロン21ミリF3.4」であったが、僕のレンズは「黒」レンズで、フォーカシングレバーが固定式であった。聞くところによると、シルバー仕上げの初期スーパーアンギュロンのフォーカシングレバーは無限遠ストッパーが付いているという。これも欲しくなり、外観キズ有りのシルバー仕上げと専用フード12501を追加購入。あわせて12万円ほど。
スーパーアンギュロンとフード、ファインダー

ところで、このスーパーアンギュロン気を付けないと、初期ものはライカM5には取り付けられない。M5の測光アームがレンズ後端にぶつかってしまうからだが、製造番号2473251以降のレンズはM5の測光アームが出ないように工夫されている。
それと、M6以降の露出計内蔵ボディに付けても測光路をレンズ後端が遮ってしまうため測光できない。
そんな不具合に対応したライカ純正21ミリレンズが1980年に発売されたエルマリート-M21ミリF2.8である。
ライカM6にスーパーアンギュロン21ミリを付けた場合のシミュレーション

1)被写体を発見して外付けファインダーでフレーミングをする
2)内蔵ファインダーを覗いてピントを合わせる(慣れればこの手順は省くことが出来る)
3)単体露出計を用いて露出を測る
4)測った露出(絞り値)をレンズに合わせる
5)外付けファインダーを覗いてシャッターを切る

正確な測距・測光を求めると、こんな手順を踏まなければならないことになる。
ならばと、エルマリート-M21ミリF2.8を買ってしまった。
このレンズはレンジファインダーカメラ用だがボディ内のめり込みを減らすためにレトロフーカスタイプを採用している。そしてライカ純正最初の21ミリレンズである。
このレンズを使いM6で撮影する場合のシミュレーション

1)被写体を発見して外付けファインダーでフレーミングをする
2)内蔵ファインダーを覗いてピントを合わせ、絞りを加減して露出を合わせる
3)外付けファインダーを覗いてシャッターを切る

このようにスナップ性が格段に向上する。
しかし、描写はスーパーアンギュロンのほうが確実にシャープな写りである。特にエルマリート-M21ミリを開放付近で使うと、中心部は問題ないが周辺部は何となくシャープさに欠けモヤッとした描写になる。もちろん少し絞れば描写は格段に良くなり、周辺光量低下も少なく使いかっては格段に向上する。

そんなわけで、21ミリレンズは3本。
これで、「ライカレンズを全部買う」顛末は、
「その1」コンタックスG1がカバーしていない90ミリ以上の望遠をカバーしようと購入した「エルマリート135ミリF2.8」に始まり、135ミリ2本。
「その2」35ミリ数えきれず。
「その3」50ミリ数えきれず。
「その4」90ミリ6本。
「その5」28ミリ2本。
「その6」21ミリ3本。
純正ライカレンズの中の15ミリ(ホロゴン)、24ミリ、75ミリを除いて30本ほどを購入し、ほとんど満足して僕の興味はハッセルブラッドへと移っていた。現在はトリエルマーなどの多焦点レンズ、18ミリ、90ミリマクロなど更なる展開をしているライカレンズだが、その後は僕のライカレンズは増えることなくとどまっている。さらにはカールツァイス製Mマウントレンズ、コシナ製、フォクトレンダーブランドなどMレンズはとどまるところを知らない展開を続けて行く事だろう。

「ハッセルブラッドを全部買う」を書く機会が訪れるかわからないが、「ライカレンズを全部買う」シリーズはいったん終了。


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