「代え難いレンズ」と最初に書きましたが普通の単焦点レンズでは
50ミリでは0.45m 1/6.7倍、
85ミリでは0.8m 1/8.1倍、
までしか近接がききません。
この「1/6.7倍」「1/8.1倍」をわかりやすく言うと、
1/10倍は 10cmの物が、センサー(フィルム)上に1cmに写る事 = 1/10
1/1倍(等倍)は 1cmの物が、センサー上に1cmに写る事、
を現しています。
言い換えると倍率が大きいほど、小さいものを画面いっぱいにとらえる事が出来ます。「AF60ミリマイクロ」では∞~0.185mまでが撮影距離で、0.185mで等倍撮影まで可能です。
まだ写真を始めたばかりの頃は「マイクロレンズは特殊なもので普通の撮影は出来ない」と思っていました。確かに、かつてのニッコールレンズでも「メディカルニッコール」などの特殊レンズで普通の撮影が出来ないものもありました。しかし現在のマイクロレンズはむしろオールマイティー、無限遠からクローズアップまでシームレスに撮影可能な便利なレンズです。人物撮影に使えば、全身からバストアップ、顔アップ、さらに目だけのアップなども撮影可能で、写真に変化をもたらしてくれる「代え難いレンズ」なのです。
僕が最初に買ったマイクロニッコールはAiニッコール55ミリF3.5だったと記憶しています。このレンズは単体で∞~1/2倍まで、中間リングを付けて1/2倍~等倍まで撮影するものでした。日常持ち歩く事はあまりありませんでしたが、仕事上で極小のものを撮る時には欠かせないレンズでした。次第にメイクアップの撮影をする機会が増えワーキングディスタンスが欲しくてタムロンの90ミリF2.5を購入しました。近接撮影は被写体に数センチの所まで近づいて撮影するため、少し望遠系のレンズでないとレンズがライティングを遮ってしまったり、アイメイクを撮影する際に瞳にレンズが映り込んでしまうのです。このレンズ巷の評判も良く、そして評判通りのシャープなレンズでした。マクロレンズにしてはコンパクトでジャマにならないので、いざという時のためにいつも持ち歩いていました。
マクロレンズが厄介なのは「露出倍数」です。
露出倍数=(1+M)²
カメラの内蔵露出計を使っていればほとんど気にすることのない「露出倍数」ですが、スタジオのストロボ撮影などで外部露出計で明るさを測ると、この計算をしないと適正露出になりません。
Mは撮影倍率、前述の例で言うと85ミリレンズで0.8mの最短撮影距離で撮影すると、
Mは1/8.1
(1+1/8.1)²=(9.1/8.1)²=1.26215516
露出倍数1は補正0 露出計の出た目 F8ならそのまま「8」
露出倍数1は補正0 露出計の出た目 F8ならそのまま「8」
露出倍数2は光の量が1/2 F8の場合「5.6」が適正 つまり1絞り開け
露出倍数1.4で半絞り
では、1.26215516は・・・1/4絞りくらい開けかな、
と、ほとんどわからないでしょ。
そもそも「M」はどうしてわかるのか、
1cmの物がフィルム上に1cmに映ったら1
90mmの焦点距離のレンズを90mm繰り出したら1
30mmだったら1/3・・・・・・
こんな計算を簡単にするための計算尺が存在するくらい露出倍数は厄介な物なのですが、
「AF-S Micro NIKKOR 60mm f/2.8G ED」はこれを自動的に補正してくれます。
どういう事かというとレンズの繰り出し量に合わせて絞りを適正に開けているのです。
F8に合わせて等倍まで繰り出すと露出倍数は4なので2絞り開けたF4の絞りになっています。これで実際の明るさはF8と同等の明るさになります。
ただし開放F2.8はこれ以上開けられないので無理。
F2.8でレンズを繰り出していくと開放F値はどんどん暗くなってF4.8と表示されます。
先ほどの計算でいくとF2.8レンズを等倍まで繰り出すと2絞り暗くなって開放F値はF5.6になる計算ですがこのレンズはピントリングをまわしてもレンズが繰り出さないインナーフォーカス式のため2絞り暗くはならないのです。
このレンズに限らず今どきのマクロレンズはすべからくそんな機能は当たり前に備えています。
そんなわけで、
スタジオ撮影でも露出倍数を一切考えないですむ、人物撮影では全身から半身、バストアップ、顔アップさらに目玉のアップまで連続して撮る事ができる代え難いレンズ、であることがわかっていただけたでしょうか。
マクロレンズは構造上大きくなりがちで、「AF-S VR Micro-Nikkor 105mm f/2.8G IF-ED」はVR機能が付いていることもあって750gとちょっとヘビー。60ミリはそれほど大きくなく425gなので持ち歩きも楽です。また、インナーフォーカスのためクローズアップ撮影時でもレンズの全長はかわりません。ナノクリスタルコートが採用されているので逆光撮影でも黒バック撮影でも何でもこなしてくれます。
右は旧型のマイクロ-ニッコール105ミリF2.8 |
105ミリは全郡繰り出し式なので最短撮影距離では全長が伸びる |
私はこのレンズでライフワークでもある「花」のクローズアップを撮っています。日頃どんなに目を凝らしても見ることのできないミクロコスモスの世界を映し出してくれるので、自分で撮った写真に自分で感動してしまいます。
「花ってこんなふうになっているんだ〜」
あなたもマクロ撮影をして驚きの世界を発見して下さい。