2011年8月19日金曜日

「幻のニコンレンズE28を買う」の巻


最近は海外ロケがめっきり減りましたが、10年くらい前までは年に数回海外に撮影に行ってました。海外で自由時間があると必ず行くのがブックショップです。写真集やカメラ雑誌を見つけて何冊も買って帰ります。海外のカメラ雑誌を見ても載っているカメラは皆日本製で、見たこともないカメラはまったくなく、そんな意味では日本で雑誌を買っている方が最新情報が載っていますが・・。
Nikkorじゃないんです

20年位前でしょうか、アメリカに撮影に行ったとき「Shutterbug」という雑誌を買ってきました。かなり大判の雑誌ですが紙の質が悪く写真を見るのにはちょっと難ありの雑誌ですが情報はたくさん載っていました。「なんか日本にない変わったモノはないか・・」と細かな情報を探してみていると「VIVITAR」や「ROKUNAR」など日本では見たこともないディストリビューターのレンズが格安で載っていました。しかし記事や写真を見ると日本のレンズメーカーの製品をOEMで自社ブランドで販売しているモノであることは明らかでした。そんな中いくつかの中古ショップに共通している出所不明なレンズを見かけました。販売リストの中のニッコールレンズ群の一番下で、他社製レンズの上に「E28/2.8」がいくつもあったのです。思い当たるのはニコンが『ニコンEM』を発売したときに『レンズシリーズ E』というニッコールレンズではない廉価版を何本か出していたことです。「35mmF2.5」と「100mmF2.8」が他のニッコールレンズよりかなり安い値段で販売されていました。そもそも『ニコンEM』は若い世代用に簡単一眼レフとして販売されていたエントリーモデルでレンズも今では当たり前ですが外装をプラスチックして軽量化し、格安のレンズに仕上げたモノでした。その後、ズームレンズ「E75-150」「E36-72」「E70-210」が販売されたのは知っていましたが28mmは聞いたこともありません。海外に問い合わせるほどの英語力はなく、ニコンに直接問い合わせることも思いつかず、一か八かで購入することにしました。値段は確か100$位だったと思います。送料込みで2万円しないくらい。インターネットなどかけらもない時代、方法はFAXでの通販です。雑誌のうしろの方にFAX注文用紙が付いていてそれに必要事項を記入し、クレジットカード番号を記入しFAXしました。確認のFAXがきたのか、届くまで何日かかったのかなどはすっかり忘れましたが、レンズはついに届きました。

日本で販売されなかった2本
『Nikon LENS SERIES E 28mmf/2.8』はとても軽量コンパクトで、デザインは日本で販売された「E 35mm F2.5」と同一のものでした。早速テスト撮影をしましたが、比較したAisニッコール28mmF2と比べても遜色なく、むしろF2.8、F4辺りではニッコールより良い位です。Ais28mmは明るさを欲張ったせいか開放の画質は中央を除いて使い物になりません。F5.6まで絞ってやっと周辺画質が使えるレベルです。E28はさすがに開放ではコントラストが少し足りませんが、F4から実用域になります。早速ニッコールに代えてE28を仕事で使うようになりました。
それからしばらくして購入したアメリカのショップからざら紙に印刷された中古カメラリストが送られてきました。その中で今度は『Nikon LENS SERIES E 135mmf/2.8』を発見したのです。E28は雑誌の中でなんども見かけましたが、E135mmは雑誌にも載っていませんでした。早速、今度は躊躇なくFAXで注文しました。よく見るとE50mmF1.8もあり、これも注文しました。その間に日本で『レンズシリーズE35mmF2.5』『レンズシリーズE100mmF2.8』も買っていたので、28、35、50、100、135mm 5本のシリーズが全部揃いました。

Eはエコノミーの略?
プロになって何年かの間にF値の暗いレンズを次々と明るいレンズに買い換え、機材がどんどん重くなっていました。さらに「高いレンズは画質が良いのか?」もちょっと疑問に思っていたで一気に全部「Eレンズ」に代えて仕事をしました。おかげで機材は軽量化でき身体も楽になりました。
そもそもカメラ雑誌などでレンズの画質うんぬんの記事が今でも記事の主点になっていますが、プロにとって画質の善し悪しはあまり関係ありません。雑誌のグラビアの水着写真を見て「このレンズの周辺画質はすばらしい」とか「このレンズの歪曲収差は1%以下じゃないだろか」なんて言っている人いますか?そんなところ誰も見ていません。今どき日本製レンズでまともに写らないレンズなんてあり得な~い。ので、極論を言えばレンズは何でもいいんです。後は個人個人の好みの問題。

そんな「ニコンレンズシリーズE」もれっきとしたニコンのレンズ。ニッコールとの差別化のため「NIKKOR」銘が付いていませんが・・。
ニッコールとの違いは鏡胴のプラスチック化:後にほとんどのレンズがプラスチック鏡胴になったので、エンジニアリングプラスチックの先駆けとなりました。
レンズ構成の簡素化:28mmは5群5枚構成(ニッコール28/2.8は8群8枚)、135mmは4群4枚構成(ニッコール135/2.8は5群5枚)、貼り合わせレンズなしなので製造工程も簡略に出来ます。

コーティングはパープル系?

コーティングの簡素化:ニッコールはほとんどがマルチコーティング化されたが、シングルコートでコーティングも簡略に。それでもレンズ枚数が少ないのでゴースト、フレアーは全然気にならないレベルです。
かくして僕の常用レンズ「Eレンズ」一辺倒の時代は5年ほど続き、いったんニッコールに戻りズームレンズ時代の到来へと移り変わって行くのです。


さて何でニコンは35mmF2.5と100mmF2.8は国内販売したのに28mmF2.8と135mmF2.8は海外専用で国内販売しなかったのか?
ニッコールに詳しい方は気付いていますか?「28mmF2.8」と「135mmF2.8」は同じスペック(焦点距離とF値)のレンズがニッコールで同時期に販売されていたからです。28mmF2.8、135mmF2.8が2種類ずつあったらややこしい。35mmはF2.8があったのでF2.5に、100mmは105mmがすでにあるので5mm短くして同じスペックにならないようにしてEレンズ独自のスペックにしているのです。
28、35、50,100,135 Eレンズ5本の勢揃い

じゃあ、アメリカにはニッコール28mmF2.8、ニッコール135mmF2.8は無かったのか・・・。
あったみたいです・・・(汗)。

最後におまけ:
比較的短命で、滅多に見かけないE28mmですが、後に「AFニッコール28mmF2.8」として復活しています。初期のAF28mmがそうですが、 「AFニッコール28mmF2.8D」になったときに設計変更されて6群6枚の現行品にかわりました。
やはり短命でした。
ちなみに、AFになったときにレンズ構成は[E]のまま、コーティングがマルチコーティングに変更になっています。僕はE28も初期AF28も持っていますので、今度違いを撮り比べてみようと思います。

2 件のコメント:

  1. 実際にレンズシリーズを発売後に使用されていた、という点で貴重な証言ですね。レンズ群構成や、マルチコートについても抑えられていて面白かったです。

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    1. お読みいただきありがとうございます。
      自分で読み返してみて、また使いたくなりました。

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