2011年10月7日金曜日

クールピクス 失踪事件  その1

「火の玉が自由自在に出せるようになった。」こんなメールをもらって僕は仕方なく三波さんに会いに行った。また例によって三波さんの「心霊写真」に付き合わなくてはならないとちょっとウンザリしたが、「今新宿にいるけど会えませんか?」と続き、仕方なく出かけることにした。ただ指定された喫茶店がなつかしいジャズ喫茶だったのでちょっとは楽しみでもあった。

三波さんと初めてあったとき、彼の体重は180kgあった。音楽雑誌の「180キロの歌手デビュー!」という取材で、僕が撮影を担当したのだ。取材は青山にある音楽スタジオで行われた。そのスタジオの隣に墓地があり、その下をトンネルが通っている。初めてあった彼は見事な巨漢でなかなか絵になる。スタジオ内でインタビューカットを撮った後、外に出てもらい隣のトンネル内で決めカットを撮影した。撮影はトンネルの入り口の壁により掛かりトンネルの出口が背景に写るようなフレーミングで撮影した。カメラはニコンF5にフジクロームアスティアを詰め、横位置の引きを28ミリで、縦位置アップを85ミリで撮った。

「お腹を壁に付けて身体をグーッと反らせて下さい。」
「壁に手をついてにらむような感じでこっちを見て・・」
等、色々なリクエストにこたえてポーズをとってくれた。
「はいッ!OK」と、僕の声で撮影が終了すると、
三波さんが「変なのが写らなければいいけど・・」と、妙なことを言った。
「大丈夫ですョ。なかなか格好良かったです。いい写真撮れました。」
「この上、墓地なの知ってます?」
「知ってますよ。墓地の下くりぬいてトンネルほってあるんですよね? え〜ッ!変なのって、その変なのですか? 写りませんよそんなの!」
一緒に歩いていたマネージャーが「ごめんなさい。この人、心霊写真とか大好きなんです。気にしないで下さい。無視して下さい。」
「僕はプロカメラマンなんで、心霊写真のインチキなんかすぐ見抜きますよ。」
そんな会話がはずんで、後日写真を見せてもらうことにした。

一週間ほど後、編集部に上がりを届けに行きそこで三波さんと再会した 。
マネージャーが写真をチェックしている間、僕は三波さんに彼が集めた「心霊写真」を見せてもらった。こういった写真はカメラマンが見るとなぜそうなったかわかるものがほとんどだ。

「これはレンズゴーストですよ。逆光で撮影すると、太陽の光がレンズ内部で反射して出るんです。確かに『ゴースト』ですけど、コーティングがあまり良くないレンズだと簡単に出ます。」
「これは手前に座っている人が吸っているたばこの煙です。フラッシュの光が強く当たってこれだけはっきり写ったんです。フラッシュの光は距離の2乗に反比例します。1mの距離を1とすると、2mでは1/4、3mでは1/9になります。この場合奥の人物に適正にフラッシュを当てると手前の煙には9倍の光が当たり、肉眼では認識できないような薄いモヤがこんな風に写ってしまうんです。」
「いるはずもないおばあさんが写っている?これは二重露光です。おそらくカメラをぶら下げて歩いている間に偶然シャッターが切れてしまったんです。この第一露光で意図しないおばあさんが偶然写ってしまった。次にこの滝の前で記念写真を撮ろうとしたとき、すでにシャッターが切れているので、押せない。慌てて巻き上げるときに巻き戻しクランクを押さえたまま巻き上げると、フィルムにテンションがかかって、パーフォレーションが裂けてしまう。するとフィルム送りがされずにシャッターチャージだけ行われて二重露光が起こってしまう。ネガのパーフォレーションを見ればすぐにわかりますよ。」

ケチョンケチョンに全否定してしまった。

写真チェックを終えたマネージャーと編集者の視線を受けて、慌ててフォローした。
「でも、まだ、科学では解明できない、不思議な現象もたくさんありますから、僕もすごく興味があります。また、ぜひ、見せてください。」

それから、毎年マネージャーから年賀状が届くようになった。

3年くらい年賀状のやりとりが続いた後、本人からはがきが届いた。
そのはがきには、芸能活動をやめて実家の長野に帰り家業を継ぐこと、心霊写真は今でもコレクションをしているが、人が撮ったものではなく自分で撮影していることなどが書いてあった。今度は自分が撮った写真をぜひ見てください。との後に、実家の住所とメールアドレスが書いてあった。
僕はいつぞやの無礼を丁寧に詫びたメールをすぐに出した。
それからメールのやりとりが続くようになった。
プロの歌手はやめてしまい、家業の造り酒屋を次いだ三波さんだが、年に1,2回知り合いのライブにゲスト出演したり、家業の営業で東京に来ている。メールをもらうと僕もいやとは言えずお茶を飲みに行き心霊写真を見せられる。

僕は自分のスタジオから歩いて新宿歌舞伎町の近くにあるジャズ喫茶「D」に向かった。
靖国通りを1本曲がり裏道に入り、地下に降りる階段をおりた。1段階段をおりるに連れだんだん音楽が大きく聞こえ、ドアを開けるとコーヒーのいい香りが漂っていた。
三波さんは入って左側の角の席に一人で座っていた。
「今回は何ですか?」
「明日、六本木の『SB』のライブにゲスト出演するんですよ。」
三波さんは以前より体重を50kg落としたそうで、最初にあった頃とは見違えるほどスリムになった。
それでも130kgある巨体を前のめりにして僕の前に写真を置いた。
「火の玉ってなんですか?」
「見てくださいよ!」
「これですか?どれが?火の玉ですか?」
「後ろに写っているでしょ。こっちも、これも・・」

見せられた写真は、居酒屋で撮った写真で、ど真ん中に三波さんが写っている。真後ろにビールのポスターが貼ってあり、そこにカメラのフラッシュが反射して丸く写っている。ほかの写真も同様で、ホテルのロビーで撮影した写真の後ろにはガラスのドアがあってそこにフラッシュの光が写っている。僕はあきれて、一蹴してしまった。

「何言ってるんですか?これはカメラのフラッシュの写り込みですよ。はっきり言って失敗写真じゃないですか。壁に対して真っ正面から撮るとこうなるんですよ。壁を背景にする場合は必ず壁に対して斜めの角度から撮ってください!これじゃ心霊写真どころか、素人以下ですよ・・・」

またケチョンケチョンにけなしてしまった。

ちょっと反省して話題を変えた。
明日のライブの話や、家業の話、僕の近況などをしばらく話し店を出た。
明日の打ち合わせとリハーサルに向かう三波さんに、
「また、見せてくださいね。今度はメールに添付してください。」と精一杯フォローしたつもりだったが、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

自分のスタジオに戻って、Webで六本木「SB」の明日のライブ情報を確認して、会場に花の発送の手配をした。

ライブ会場には仕事の都合でいけなかった。
普段だと翌日には花のお礼のメールが来るのだが、そのときはメールも来なかった。

それから1ヶ月くらい経った頃だろうか、三波さんから添付書類付きのメールが届いていた。
「今度は本当に写った」と言う添付写真を見ると木がたくさん写っている家族写真で、後ろの方に人くらいの大きさで「白いモヤ」のような縦長のものがうっすらと写っている。説明では家族で遊びに行った樹海の風穴近くで撮ったもので、何となく生暖かいいやな空気が流れていたそうだ。撮影時には気がつかなかったが後になってパソコンで確認して「モヤッとしたもの」を発見したそうだ。
「確かに何か写っていますね。ゴーストやフラッシュの反射ではないようですから、実際に何かがあったのでしょう。ただ人の陰に隠れて全体が写っていないのが残念です。その場で気がついて何枚も撮影していれば正体がもっとはっきりしたので残念です。デジカメなのですから、撮ったらすぐモニターで確認すると何かが写っていた場合すぐに気が付きますよ。」と、返事をしておいた。

それから2日後の夕方6時を過ぎた頃、仕事場で写真のセレクトをしているときに携帯電話が鳴った。表示された番号が知らない番号だったので、ぶっきらぼうな声で電話に出た。
「もしもし」
「あのー、突然すいません。三波の家内です。」
「三波さん?あー三波さんの奥さん。以前仕事で諏訪に行ったとき一度お目にかかってますよね?ご無沙汰してます。で?あれ?三波さんどうかなさいましたか?」
「実は、昨日から帰ってきていないんです。」
なんで旦那が帰ってこないのを僕に電話してしてきたのか?変な奥さんだな、と思いながらも聞き返した。
「携帯は?かけました?」
「ええ、かけたんですけど通じないんです。で、主人が出かけるとき変なことを言っていたので、主人の年賀状から携帯の電話番号を探して、失礼だと思ったんですがお電話した次第なんです。」
「変な事ってなんですか?」
「今度こそ、しっかり写真を撮って、本物の心霊写真と認めさせる・・・・とか?」
「えっ?心霊写真?で、僕ですか?」
「そうだと思うんです。いつも東京から帰ると悔しがっているんです。『また否定された』と・・・」
「あ〜すいません。それ僕のせいだと思います。そうですか、悔しがっていたんですか?いや〜申し訳ないことをした。でも、僕はどこに行ったか知りませんよ。」
「そうですか〜?何か手がかりになることでもご存じないかと、藁にも縋るつもりでお電話したんですが・・・そうですよね。じゃあ警察に捜索願を出してみます。」
「済みませんなんにもお役に立てなく・・・、ん?ちょっと待って下さい。一昨日だったかな、三波さんからメールが来たんですが、そこには息子さんと奥さんが写った写真が添付されていました。もしかしたら、そこにまた行ったんじゃないかと思うんですけど何処だったか覚えていませんか?確か『樹海の風穴で撮った』って書いてありましたけど・・」
「全然覚えていないんです。よく主人に連れられて不気味なところへ行くんですけど、私も息子も余り興味がないので・・・、車の中では寝てますし、あのときは洞窟だか風穴だか何ヶ所も行ったので・・・。」
僕は何か三波さんが行った場所の手がかりになるものがないかとパソコンのメールを開いた。
「ちょっと待って下さい。三波さんその時どんなカメラで撮っていたか覚えてませんか?」
「さ〜よく覚えてませんけど、いつも『プロカメラマンに勧められたカメラだ』って自慢してました。」
「そっか!奥さんもしかしたら三波さんが行った場所わかるかもしれませんよ!」

つづく


この話はフィクションです。
登場人物は実在しません。

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