2011年6月10日金曜日

「ガールフレンド」の Tiltall

「ガールフレンド」の Tiltall
僕のガールフレンドではない。1979年公開の映画 「Girl friends」の話である。
古い話なので僕はこの映画を見たかどうか覚えていない。はっきり覚えているのはこの映画のポスターで、主演の女優メラニー・メイロンがかついでいる三脚だ。
1979年当時、僕はカメラマンのアシスタントをしていた。今はだいぶ事情が変わっているが、当時はアシスタントと言えば「弟子」、師匠の自宅のトイレ掃除から子供のお守りまでやらされる下働きだった。給料と言えるようなものはもらえず、1ヶ月25000円のお小遣いをもらっていた。そんな辛い日々を送っていても「いつかは独立して一人前のカメラマンになるんだ!」と、自分で自分を励ましていた。ある日仕事に疲れクタクタになって新宿駅を歩いているとき、このポスターを見かけた。

内容は
「田舎から出てきたかけ出しカメラマンと、詩人志望の女の子2人がニューヨークで暮らしている。詩人志望のアンは詩人を諦め、結婚し子供を産み平穏な暮らしを選んでいく。一方かけ出しカメラマンスーザンは別のルームメイトを得、さらに頑張る元気をもらい個展の準備。2人別々の人生を歩み始める。」
というもので、(今ネットであらすじを探して読んでいるうちに見たような気がしてきた)そのスーザン(メラニー・メイロン)と自分を結びつけたのが彼女が肩にかついでいる三脚だった。金属むき出しで、いかにもプロが使う大型三脚、それが [Tiltall] ティルトールだと知ったのはだいぶ後になってからだ。
 当時はプロカメラマンが使う三脚と言えばフランス製のジッツォかアメリカ製のハスキーのどちらかに決まっていた。どちらでもない見たこともない三脚が彼女の肩で威風堂々と見え、僕は三脚に一目惚れした。名前も知らないその三脚が記憶に刻み込まれた。

実物のティルトールを見たのは20年後の中野だった。東京の中野駅の近くの中古カメラなどを多く扱うFジヤカメラに新品のティルトールがあった。初対面だったが一目見て20年前の「Girl friends」だと直感した。
パッケージを見ると「コニカマーケティング」とある。箱だったかタグだったかにティルトールの詳しい歴史が載っていて、元々はアメリカ生まれで、ライカ社がライカカメラに最適な三脚と考え一時期ライカ傘下で製造しており、生産中止後「コニカ」が復刻版を出した。それがこの製品だった。他にもいかにこの三脚が画期的であったかなどの詳しい解説があり興味津々だったが、その時すでに僕にはわざわざフランスに行って購入したジッツォと3台のイタリア製マンフロット三脚があり・・・。
中野駅に向かう僕の足取りは重く頭の中で竹内まりやの「駅」が何度も何度も繰り返し聞こえた。

 そしてついに、3年前、3度目の出会いで僕はティルトールを手に入れた。
アメリカの通販サイトで新品ティルトールを発見したのだ。しかも値段は100$今度は迷わず注文したのだが、問題は送料。航空便で100$近くした。
そして、手にしたティルトールは、ライカ社からも、コニカからも見放されおそらくアメリカの小さな工場で雑に作られたであろう再復刻の製品だった。新品にもかかわらずネジ山がつぶれ、脚1本にガタがあり、カメラを取り付ける部分(雲台)のゴムはベト付いてめくれていた。僕はネジを締め直し、雲台のゴムを東急ハンズで買ってきたコルクに張り替えた。
映画のポスターで見たものは銀色のアルミむき出しだったが僕のティルトールは黒塗装されていて無駄に光を反射しない。雲台のパーン棒が直角に付いているのがティルトールの特徴で、初めて見てから30年近く経っても変わっていない。
 実際に使ってみるとカメラ横位置では真後ろに飛び出しているパーン棒が喉に当たって最初は戸惑った。これも次第になれるし、縦位置の時は問題ない。重さもジッツォより軽く、強度、安定性も良い。細かい部分は使いながら直しを繰り返すうちに馴染んできた。高さも190cm近くまで上がり十分に高い。
やっと手に入れたパートナーはいつも僕の車の後部に収まっている。

残念ながら、誰にでもお勧めするものではない。
実用性を考えると国産メーカーで良い三脚がたくさんある。

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